昔、部活で最初の一文を決めて書くといって書いた物。
所要時間10分とかだった気が。

 けたたましい声がするので、僕はアパートの窓を開けてみた。
まるで赤ん坊の泣き声か何かの様だ。
この時期になると、あちらこちらから聞こえてくる。
僕は頬杖をつきながら、桜の下の猫達の恋愛模様を見る。

 恋愛か…。猫達の必死な姿にふと自分を重ね合わせる。
自分も必死だった。
相手に振り向いてもらいたくて色々やった。
彼女は最初見向きもしなかった。
そのうち、彼女も自分の事を見てくれるようになった。本当に僕は幸せだと思う。
だから、普段はあまり好きではない猫もついつい励ましてしまう。
人と猫という種類は違えど、相手を思う気持ちは同じだと思うのだ。
たとえそれが本能によって操られていたとしても。

 僕は冷酒を取り出して、桜と猫達を眺めていた。
アパートの周囲は人も少ない。
本当に猫の声しかしない。
窓の目の前にある桜の木を見て、楽しんでいるのは僕しかいないかと思うと、少し嬉しい様な気になる。
ふと盃を見ると、桜の花びらが入っている。
僕は風流な春風に感謝した。

 考えてみれば、僕と彼女を結び付けてくれたのも猫だった。
それを思えば、もっと猫をいたわってやっても良いかもしれない。
それ程迄に、僕にとって、今の幸せは何にも代え難い大切なものなのだ。
あの夜も、猫が五月蝿く鳴いていた。
あの声の合間に人の悲鳴が紛れ込んでいたなど、僕以外の人間は知らない。

 僕の彼女は、桜となって今年も綺麗に咲いている。

<了>